学生インタビュー
岸根 紗葵(キシネ サキ)
- 所属
- 実践宗教学研究科 死生学専攻
- 課程・学年
- 博士後期課程・3年
- 研究テーマ
- ファッションに現れる<文化的スピリチュアリティ>の探求―死・身体・生を手がかりに
博士課程に進んだ理由
もう一度、学びの門へ
上智大学神学部への入学を機にキリスト教の文化について学び始めました。学部時代はこれ以上にないくらい学びに没頭したと感じる日々を過ごし、卒業後はアパレル企業に就職しました。学生の頃からキリスト教の学びの中で「豊かさとは何か」「生きる意味とは何だろう」とよく考えていて、それなりに自分なりの答えも持っていたはずでした。しかし、社会に出て働くなかで、次第に自分の生き方に矛盾を感じるようになり、心の中に深い渇きを覚えるようになったんです。
「この渇きを癒すには、学びの門をもう一度くぐり直すしかない」と思い立ち、1年間働いたあと再び学びの門をくぐったわけです。それ以来、キリスト教に限らずいろいろな宗教を比較しながら、特定の宗教にとどまらないところで「生きやすさ」「死ぬとは何なのか」ということを研究したいと考えるようになりました。
博士課程に進学した理由は、修士課程での研究をさらに発展させたいと考えたためです。しかし、修士課程修了後すぐには進学せず、どの専門分野に進むべきか慎重に検討しました。というのも、研究の軸をファッション(社会学的視点)に置くか、死の表現(死生学的視点)にするかで迷いがあり、この期間にそれぞれの専門分野の先生方に相談したり、学会に参加したりしながら方向性を模索していました。最終的には、死生学的視点から研究を進めることで、現代社会の文化表現をより深く掘り下げられると判断し、この実践宗教学研究科を選択しました。 将来的には、ファッションに限らず、音楽や文学など他の分野にも応用し、研究の視野をさらに広げていきたいと考えています。
研究内容
ファッションと死生学という視点を軸に探究
私が取り組む研究では、ファッションを通じて人々の精神性(スピリチュアリティ)がどのように表れるかを探究し、その文化的・現代的意義を探ることを目的としています。個人の身体観・世界観・死生観が衣服の制作や着用に与える影響を考察し、宗教学におけるスピリチュアリティ文化研究の知見を基に、ファッションの持つ「文化的スピリチュアリティ」を明らかにします。
1.ファッションと「死」
- ①ハイファッションの分析:A・マックイーンの作品を中心に、衣服のアート性と「死への誘惑と抵抗」という両義的な死生観を分析しました(岸根 2022; 2025a)。今後は、マックイーンを含む現代デザイナーの作品を対象に、死をテーマとした衣服の視覚的要素を分析予定です(岸根 2025b)。
- ②死装束の分析:現代日本の葬送文化におけるエンディングドレスの制作者と購入者に着目し、文献研究を通じてファッションに託される死生観を明らかにしました(岸根 2024)。
《参考文献》
岸根紗葵 2022:「ファッションデザイナーの服づくりと死生観:Lee Alexander McQueenの生涯とモードにおける衣装の死生学的可能性について」上智大学大学院実践宗教学研究科修士論文。
岸根紗葵 2024:「自らの死を美しく飾る: 現代日本の葬送文化におけるエンディングドレスの分析」『現代死生学』2、1-19。
岸根紗葵 2025a:「ファッションが描く「死」:アレキサンダー・マックイーンのコレクション分析」『死生学年報2025』、127-148。
岸根紗葵 2025b:「生きた身体に「死」を纏わせる:現代ハイ・ファッションにおける死の視覚化」『現代死生学』3、47-64。
2.ファッションと「身体」
身体観の変容の分析:既製服のサイズによって規格化された「もう一つの身体」を持つ現代人について、ファッション言説を通じた身体観の変容を分析する予定です。
3.ファッションと「生」
ファッションケアの分析:病院や老人ホームで行われるファッションセラピーに注目し、健康状態に関わらず「おしゃれ」をすることの意味を考察する予定です。
SPRINGの魅力
心にも身体にも余裕が生まれ、積極的に動ける研究環境に
経済支援の重要性は非常に大きいと感じています。大学院生が研究を続ける上で最も苦労するのは生活費をどのように確保するかという点です。私自身、SPRINGに採用されるまではアルバイトを4つ掛け持ちしていたため、研究時間を確保するのが難しい状況でした。しかし、現在は研究に専念できる環境が整い大変助かっています。研究に充てられる時間が増えたことで、学会の参加でも都内だけでなく地方の学会に余裕を持って参加できるようになったのは良かったと思います。そうした場で知り合った先生方とのつながりも生まれ、新たな学びの機会をいただくことができました。本当にこの1年間は研究者としての0.1歩目を踏み出したように感じます。
さらに、多彩なイベントに参加できる点も大きな魅力です。例えば、MIRAIプロジェクト。スウェーデン・ストックホルムで1週間にわたるプログラムに参加しました。特に、経済や環境問題をテーマとしたレクチャーを通じて、ビジネスにおける環境保護の重要性や未来の環境を守るための技術革新の現状について学ぶことができました。最初は、経済や環境など普段全く耳にしないようなキーワードで、しかも英語でディスカッションやレクチャーとなると「ああ、大変」と思いました。自分の研究に専念してしまうと小さい枠の中に囚われてしまいがちですが、いろいろな分野の人との出会いや違う分野を学ぶことで新たな視点が見つかることも実感しました。自分の研究テーマであるファッションを環境とつなげて考える良いきっかけにもなり、MIRAIプロジェクトの参加は貴重な国際的な学びの機会でした。
国内の学会・研究への参加も増え、上智大学の「100人論文」に参加した時には、学部生や教職員など、普段は意見を交わす機会の少ない方々から貴重なコメントをいただきました。ファッションは「衣食住」の一部として誰にとっても身近な存在であるため多くの関心が寄せられ、特に、「死」や「生」という視点から捉え直す研究に興味を持ってくださる方が多かったことが印象的でした。改めて、ファッション研究の魅力を実感するとともに、新たな発見も得られ、研究をさらに深める貴重な機会となりました。
経済支援と多彩なプログラムやサポート支援が「有る」と「無い」とでは、研究環境が本当に違ってくると思います。
今後の展望
さらに視野を広げて実りある1年を目指す
SPRING生として残り1年となりましたが、これまでとは異なる分野での発表などに挑戦し、研究の幅を広げたいと考えています。この1年を実りあるものとし、さらに充実した研究を進めていきたいと思います! 来年度は博士論文の完成を目指すとともに、これまで発表を行ってきた宗教学・死生学の枠を超え、社会学や表象文化論の視点も取り入れながら研究を発展させ、学会などでの発表の機会を積極的に設ける予定です。
最終的には、研究者として専門性を深め、大学教員として教育・研究に携わることを目指しています。
SPRING生を考えている人への一言
SPRING生への応募をきっかけに何かが始まる
SPRINGは、研究に専念できる貴重な機会を提供する制度です。状況に応じて海外留学の支援を受けることも可能で、研究者としての将来を見据える方にとって、大きな成長の機会となるはずです。さらに、同じ大学で異なる分野の研究に取り組む博士課程の仲間と出会い、切磋琢磨できる貴重な環境でもあります。ぜひご応募ください!
ここで挑戦しなくてどこで挑戦するのか…、とても良いチャンスなんです。応募書類に記載する際に、自分の研究内容をもう一度整理したり、今後の研究のことを考え直すきっかけ、あるいは自分の研究内容をその都度更新していくきっかけにもなリ、こうした応募書類の作成の機会はとても大切です。SPRINGへの応募に限らず、日本学術振興会など外部資金を獲得するための書類作成の練習にもなると思いますので、積極的に応募することをお勧めします。